学びの箱庭~塾講師の取組み~

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高校入試”ツッコミ”古典⑪『鳥類助けを求るの知惠のこと』~耳嚢~【原文先行版】

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古文独特の世界観を現代人ならではのツッコミを入れながら楽しく学んでいきましょう!!

さて、今回の作品は『耳嚢』の『鳥類助けを求る知惠のこと』です。どうぞお楽しみください!

【このお話のツッコミポイント】

あぁ・・うん、それただのミラクル。

 

『原文(入試用問題文)

木下何某(なにがし)の、近臣をうち連れて楼に登り眺望ありしに、遙(はるか)の向ふに松ありて、梢(こずえ)に鶴の巣をなして、雄雌餌を運び養育せる有り様、遠眼鏡(とほめがね)にて望みしに、松の根より、よほど太き黒きもの段々木へ登る様、うはばみ(※)の類(たぐひ)なるべし。

「やがて巣に登りて、雛(ひな)をとり喰(くら)ふならん。あれを制せよ」

と、人々申し騒げどもせん方なし。しかるに、二羽の鶴のうち、一羽蛇を見付けし体にてありしが、虚空(こくう)に飛び去りぬ。

「哀れいかが、雛はとられなん」

手に汗して望み眺めしに、もはや、かの蛇も梢近く至り、あわやと思ふ頃、一羽の鷲(わし)遙に飛び来(きた)り、蛇の首を喰(くは)へ、帯を下げし如(ごと)く空中をたち帰りしに、親鶴も程なくたち帰りて雌雄巣へ戻り、雛を養ひしとなり。

鳥類ながら、その身の手に及ばざるをさとりて、同類の鷲を雇ひ来りし事、鳥類心ありける事と語りぬ。

※うはばみ・・・大きな蛇

根岸鎮衛耳嚢 巻之六」を元にした高校入試問題文)

 

『現代語訳』

木下何某(なにがし)が近臣をうち連れて高楼に登り眺望なされた。その際、遙か向こうにある大木の松の梢に、鶴が巣をつくり、雌雄(の親鳥)が餌を運んでは子どもを育てている様子を望遠鏡で眺めていたところ、その松の根元からたいへん太く黒いものが段々と木に登るのが見え、それはうはばみ(大きな蛇)であるようだった。

「(大蛇が)すぐに巣に登り入って雛を食べてしまうにちがいない。誰かあの蛇を止めろ」

と皆慌てふためいて騒いではみたものの、どうすることもできない。そうして見ていると2羽の鶴のうちの1羽がその蛇を見つけた様子であったが、空高く飛び去ってしまった。

「可哀想に。もう雛は捕られてしまうにちがいない」

と皆、手に汗を握りその様子を眺めているうちに、大蛇はもう梢の近くまでたどり着いた。あわや!と思ったその時、一羽の鷲が遙か遠くから飛び来て蛇の首を咥え、口から長い帯をぶら下げたような格好で飛び去ってしまった。

すると間もなく飛び去っていった一羽も巣へ戻り、また雌雄揃って雛の養育にあたった。

鳥類ながら自分の手に負えないということを理解して、同類である鷲を雇いに行ったのだろう。鳥類ではあるが思慮というものがあるようだと皆語った。

 

『ツッコミ解説』

この「耳嚢」は江戸時代の雑話集。旗本・南町奉行であった根岸鎮衛が30年にわたって書きためたものだと言われています。

雑話ということで読みやすい話も多く、上記のように端折った形式で高校入試などの試験にも用いられています。

さて、このお話ですが、自分たちの雛が蛇の脅威にさらされていることに気づいた親鶴が同じ鳥類の猛者”鷲”に助けを求めたという内容です。

もちろん、現代人はそう考えませんね。ただ奇跡的なタイミングで鷲が蛇を捕まえただけ。動画を撮っていればtwitterにでも上げたのに!ぐらいの感覚でしょう。

ただ、この光景を”鶴が鷲を雇って蛇を駆逐した”、”思慮深い鶴”と本気で解してしまうのが古典の世界観なんですよね。

文自体は読みやすいのに現代人の感性が邪魔をするというお話の好例です。

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