今回の作品は江戸時代後期の随筆集、閑田耕筆(かんでんこうひつ、伴蒿蹊著)『上野国の士人の家に』です。栃木県の公立校入試に採用されたこのお話。男気あふれる二人のスカッとぶりをお楽しみください。
【このお話のスカッとポイント】
カッコイイ”二人”の男!
『原文(入試用問題文)』(出題:福井2021)
上野国(かうづけのくに:群馬県)の士人(武士)の家に、秘蔵の皿二十枚ありし。もしこれを破(わ)るものあらば一命を取るべしと、世々いひ伝ふ。然(しか)るに一婢(召使の女)あやまちて一枚を破りしかば、合家(家中)みなおどろき悲しむを、裏に米を臼つく男これを聞きつけて、わが家に秘薬ありて、破れたる陶器を継ぐに跡も見えず、先(ま)ずその皿を見せ給へといふに、皆色を直してその男を呼びて見せしに、二十枚をかさねて、つくづく見るふりして、持ちたる杵(きね)にて微塵に砕きたり。人々これはいかにとあきれれば、笑ひていふ。一枚破りたるも二十枚破りたるも、同じく一命をめさるるなれば、皆わが破りたると主人に仰せられよ。この皿陶器なれば一々破るる期あるべし。然らば二十人の命にかかるを、我れ一人の命をもて償ふべし。継ぐべき秘薬ありといひしはい偽りにて、かくせんがためなりと、一寸もたぢろかず、主人の帰りを待ちたるに、主人帰りてこの子細を聞きて、その義勇を甚だ感じ、城主へまうして士に取り立てられたりしが、はたして廉吏(心が清く私欲のない役人)なりしとかや。
『現代語訳』
上野国の武士の家に秘蔵の皿が二十枚あった。もし、これを割る者がいればその一命を奪うと、代々言い継がれていた。ところが、召使の女が誤ってその皿の1枚を割ってしまったので、家中の者が驚き(女が命を奪われると思って)悲しんでいると、裏で(もみ殻をとるために)米をついていた(使用人の)男がこのことを聞き、私の家に秘薬があり、(それを使えば)割れた陶器をつなぎ合わせても跡が見えません。まず、その皿を見せてくださいと言ったので、皆、落ち着きを取り戻してその男を呼んで(皿を)見せたところ、(男は)皿を二十枚重ね、じっくりと見るふりをして、持っていた杵で粉々に砕いてしまった。人々はこれはどうしたことかと途方に暮れていると、(男は)笑って言った。一枚割っても、二十枚割っても同じように一命を取られるなら、(この皿は)すべて私が割ったと主人におっしゃられよ。この皿は陶器なのでその一つ一つに割れるときがあるに違いない。そうしたら二十人の命にかかわることを、私一人の命をもってつぐないをしましょう。つなぎ合わせる秘薬があると言ったのは偽りで、このようにするためであると、少しもたじろがずに主人の帰りを待っていると、主人が帰ってきてこの事情を聞いて、その正義の心から発する勇気に感じ入り、城主に推薦して武士に取り立てなさったのだが、案の定、(男は)心の清らかな役人だったということだ。
『スカッと解説』
実は最初、このお話を”ツッコミ古文”のネタにしようかなとも思ったんです。だって、主人の身になってくださいよ。家に帰ってきたら秘伝の皿が全部粉々なんですよ。どうしてこうなった!って感じですよね。
しかもね、こんな主人だったら、普通に召使の女の命を取ることなんでしないと思うんですよ。1枚割れた時点でそのまま主人に申し出ていれば、多分、女の命も皿19枚も助かったんじゃないかって思います。
ああ~自分の小市民っぷりが嫌になるなぁ~。ここは二人の男気に感じ入るだけでいいのに・・・。
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