古文独特の世界観を現代人ならではのツッコミを入れながら楽しく学んでいきましょう!!
さて、今回の作品は『古今著聞集』から『横川の恵心僧都の妹』です。現代人の感覚では『そうはならんやろ!!』というツッコミどころが満載のこのお話。どうぞお楽しみください!
【このお話のツッコミポイント】
安養の尼、全米が泣くレベルで善人
『原文』
横川の恵心僧都の妹、安養の尼のもとに、強盗に入りにけり。物どもみな取りて出でにければ、尼上は紙衾(かみぶすま)といふものばかり負ひ着て居られたりけるに、姉なる尼のもとに、小尼公とてありけるが、走り参りて見ければ、小袖を一つ取り落したりけるをとりて、
「これを盗人取り落して侍りけり。奉れ」
とて、持ちて来たりければ、尼上の言はれけるは、
「これも取りて後は、わがものとこそ思ひつらめ。ぬしの心ゆかざらんものをば、いかが着ける。盗人はいまだ遠くはよもゆかじ。とくとく持ちておはしまして、取らさせ給へ」
とありければ、門の方へ走り出でて、「やや」と呼び返して、
「これを落されにけり。たしかに奉らん」
と言ひければ、盗人ども立ちどまりて、しばし案じたる気色にて、
「悪しく参りにけり」
とて、取りたりける物どもをも、さながら返し置きて帰りにけりとなあん。
『現代語訳』
横川の恵心僧都の妹である、安養の尼上のもとに強盗が入りました。
強盗達は家にあった物をすべて取って出ていったので、尼上は紙衾(かみぶすま)というものだけ、着て座っていました。
そこに(安養の尼上の)姉である尼のもとにいた小尼君という者が、走って参上して見たところ、強盗が盗んだ小袖をひとつ落としていたのを見つけました。
そこで小尼君が尼上に
『強盗がこれを落としてございます。お召ください。』
といって、持ってきたところ、安養の尼上は
『強盗たちもそれを取ったあとは、その小袖のことを自分の物と思っているでしょう。持ち主の納得がいかないものをどうして着ることができましょう、いやできません。彼らはまだ決して遠くへは行かないでしょう。早く早く持っていらっしゃってお与えなさい。』
とおっしゃっいました。そこで小尼君は門の方へ走り出て、『これこれ。』と強盗を呼び返して、
『これを落としましたよ。間違いなく差し上げましょう。』
と言ったので、強盗たちは立ち止まって、少しの間あれこれと考えている様子で、
『具合が悪い所に参上してしまった。』
といって、取った物をすべて返して帰っていったということです。
『ツッコミ解説』
信じられますか?自分の所に入った強盗が落としていった小袖を『強盗に返してこい』と妹に命ずる姉。そして、そのムチャ振りに抗することなく、なぜかまだ近所でプラプラしていた強盗に返しにいく妹。
『盗られたものは所有権が移転する』という、現在の民法に対し真っ向勝負を挑む安養の尼・・・脱帽です。強盗のもとへ妹をたった1人で行かせるという所業には狂気さえ感じます。そして、このミラクルワールドに翻弄される強盗達。ついに彼らはこう言います。
『悪しく参りにけり(具合の悪い所に参上してしまった)』
確かにそのとおり。もう、どこからツッコんでいいのか分からないこのお話、現代の感覚と全く相容れないストーリー展開が今も多くの中学生を惑わしています。