古文独特の世界観を現代人ならではのツッコミを入れながら楽しく学んでいきましょう!
さて、今回の作品は『沙石集』から『ある在家人、山寺の僧を信じて』です。現代人の感覚では『そうはならんやろ!!』というツッコミどころが満載のこのお話。どうぞお楽しみください!
【このお話のツッコミポイント】
藤のこぶ、最強!
『原文』
ある在家人(ざいけにん)、山寺の僧を信じて、世間・出世深く頼みて、病む事もあれば、薬なども問ひけり。この僧、医骨もなかりければ、万(よろづ)の病に「藤のこぶを煎(せん)じて召せ」と教へける。これを信じてこれを用ゐるに、万の病癒(い)えざる無し。
ある時、馬を失ひて、「いかがつかまつるべき」と云へば、例の「藤のこぶを煎じて召せ」といふ。心得がたけれども、やうぞあるらんと信じて、あまりに取り尽くして、近々には、無かりければ、山の麓(ふもと)を尋ねける程に、谷のほとりにて、失せたる馬を見付けてけり。これも信のいたす所なり。
『現代語訳』
ある在家人※1が、山寺の僧を信じて、世の中や仏道のことなど、深く頼りにして、病気になると、薬のことなども問いきいていた。
この僧は、医術の心得もなかったので、どんな病気にも「藤のこぶ※2を煎じてお飲みなさい」と教えた。そこで在家人はそれを信じ服用したが、どんな病気も治らないことはなかった。
さて、この在家人がある時、馬を失って「どうしたらよいでしょうか」とこの僧に相談した。すると僧はいつものように「藤のこぶを煎じてお飲みなさい」と言う。
納得しにくかったけれども、理由があるのだろうとその言葉を信じて、藤のこぶを探したが、あまりに取り尽くして近所には無かったので、少し遠い所に行って、ある山のふもとを探し求めるうちに、谷の辺りでいなくなった馬を見つけた。これも僧を信じたおかげである。
※1僧にならず仏教を信仰する人
※2藤の木の途中にできるコブのようなもの。調べてみると虫に喰われたところが異常な細胞分裂をしてふくれあがってしまう”一種の植物のガン”であるらしい。これは、いけない、ますますいけない。
『ツッコミ解説』
医術の心得が無い人に病気の相談をして、その回答が何でもかんでも「藤のこぶを煎じて飲め!」となる起。すでに怪しい気配が漂います。そして、その結果全ての病は癒えたという承。もうこの導入で異世界に迷い込みました。
そして、極めつけが転。いなくなった馬についての相談に
『藤のこぶを煎じて召せ』
といつものように答える僧。現代人の感覚なら呆れ、怒りさえ覚えるところです。しかし、在家人は”納得できない”ながらもその言に従いました。
そして結。なんと在家人は藤のこぶを探していた先でいなくなった馬を見つける。衝撃のラストですが、原文は慌てず騒がず、さも当たり前のようにこのミラクルを締め括ります。僧を信じたおかげだよねと・・・。
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